「……はい。矢治は二ヶ月前に入院しまして」
入院。初耳だ。
「風邪をこじらせ、軽い肺炎を患いました。ええ、年齢のせいもあるでしょう。今は自宅におります。はい、もともと白峰様のお宅での仕事しか、こちらを通した仕事は続けておりませんでしたので……いえいえ、加瀬も腕の良い調律師ですよ。きっと、お嬢様のご期待に沿うものを。……はい、では、加瀬に」
受話器を渡される。
「加瀬です」
「……矢治さんのこと、知りませんでした。驚きました」
「私も今初めて耳にしました」
店長が、すまない、と俺の肩を叩いた。
「どのようなピアノがあるかは、私も把握しておりますので、伺う日程を決めたいのですが」
「……結構です」
No thank you.
を意味する、言葉だ。
「もう、私の弾くピアノを聴く人がいません。だから、いらないのです」
入院。初耳だ。
「風邪をこじらせ、軽い肺炎を患いました。ええ、年齢のせいもあるでしょう。今は自宅におります。はい、もともと白峰様のお宅での仕事しか、こちらを通した仕事は続けておりませんでしたので……いえいえ、加瀬も腕の良い調律師ですよ。きっと、お嬢様のご期待に沿うものを。……はい、では、加瀬に」
受話器を渡される。
「加瀬です」
「……矢治さんのこと、知りませんでした。驚きました」
「私も今初めて耳にしました」
店長が、すまない、と俺の肩を叩いた。
「どのようなピアノがあるかは、私も把握しておりますので、伺う日程を決めたいのですが」
「……結構です」
No thank you.
を意味する、言葉だ。
「もう、私の弾くピアノを聴く人がいません。だから、いらないのです」



