pp―the piano players―

 共有していた過去。それに頼り過ぎてはいけない。
 相手を自分のために束縛し、その未来を脅かしてはいけない。

 わたしたちはまるで鏡に写った像のように、お互いのことを思い、心を砕いていた。相手のために、相手のために、そのうち自分の正直な気持ちを隠して、自分が今を生きていることを忘れていた。


『Ich liebe dich.
 元気でな。    敬具』

 形だけの結語が虚しい。わたしは便箋を揃え、もう一度始めから読む。そしてまた、最後に辿り着く。

 Ich liebe dich.

 それは、わたしがあなたに伝えたかった言葉だよ。圭太郎君。


 泣き崩れるわたしを、酒井君の優しい腕が包む。
「早紀」
 この腕にすがって良いのか、それとも払い除けるべきなのか。その判断がつかない。