pp―the piano players―

 酒井君を見る。酒井君はじっと、手紙に綴られた文字を見つめている。

「酒井君」
 声を掛けると、纏う空気がにわかに緩くなる。わたしを見て、頷いた。
「君たちは……何と言うか、すごいね」

『俺の演奏会の日にお前が酒井と一緒に過ごすと言うから、だったら俺も見極めてやろうと思ったんだ。お前が置いて行った、高校の卒業生名簿を見て酒井の住所は調べられた。それでチケットを送った。

 お前が体調を崩してからの酒井の対応、態度を見た。ライスターが俺の演奏を見た。ライスターは俺を説得するためだけに、日を改めて先生の家に来た。お前は酒井を連れて先生の家に来た。

 お前にはお前を守る奴が必要で、俺には俺がピアノを弾くことを認めてくれる奴が必要だった。要件は満たされたんだ。俺たちはもう、離れても何も問題はない。』