pp―the piano players―

　そうだね。きっとわたしは、圭太郎君が泣いて頼まない限り、先生の家で再び暮らすことは考えない。圭太郎君が泣いて頼むなんて、あり得ない。

『留学の話は、前から幾つかあった。惹かれる話もあった。でも踏ん切りがつかなかった。お前が傍にいなきゃ嫌だ、と駄々をこねる、俺の我が侭、弱さが、俺の腰を重くしていた。』

　あの、コンサートの日に令依子さんから言われたことを思い出す。その後、酒井君と交わした言葉を思い出す。

『そうやって俺は、自分で自分のことを縛り付けていたんだ。早紀の存在が俺の判断を鈍らせていると言う人もいたけど、違うからな。そう錯覚していたこともあったけど、違う。俺自身の問題だ。
　気付いたから、お前を理由にするのは止めた。お前には酒井がいるからな。酒井はお前を守るからな。俺は、お前が安心していられれば良い。お前の傍にいるのが俺じゃなくても。』