pp―the piano players―



 その中に、チケットは入っていなかった。チケットの代わりではないが、便箋が何枚も、何枚も入っている。

「僕も見て良いかな」
 酒井君の問いかけに、ゆっくり頷く。部屋の中は、弱めに入れた冷房が効き始めた。アイスティーのグラス中の、氷が溶けて涼やかな音を立てる。



『拝啓 日本は残暑が厳しいんだろうけれど、こっちはとても過ごし易い。驚いている。元気にしているか? ちゃんと飯は食っているのか? 俺はこの一ヶ月、初めて経験することばかりで戸惑う毎日だった。ようやく手紙を書くような余裕が出来たから、手紙を書く。』

 ふっと笑みがこぼれる。圭太郎君は、いつでも、どこでも、真っ直ぐに立っている。それが伝わって来る。

 毎日がとても充実しているようだ。寝ても覚めても音楽、音楽。中学から音大の附属校に学んでいて、音楽漬けなんて日常茶飯事なのに、それでも尚。
 それから、先生の昔話。詳しくは書いてくれないけれど、ライスターさんや、過去の先生を知っている人たちが色々と語ってくれるそう。うらやましい。