pp―the piano players―

 令依子さんの言葉の意味を反芻して消化するのに、少し時間がかかった。酒井君がわたしの顔を覗き込み、
「フリーズしてるよ」と眉を下げて笑う。

 顔を上げると、令依子さんのすぐ先には圭太郎君の姿があった。令依子さんが片方のコーヒーを手渡すと、圭太郎君は眉をひそめた。

「コーヒーだめ?」
 会話が聞こえてくる。
「あまり」
 圭太郎は、嗜好飲料はコーヒーよりお茶、紅茶より日本茶を好む。好む、と言うより、コーヒーは苦くて飲めない、紅茶は香りが嫌い、と長い間ごねて、先生を困らせ、加瀬さんに馬鹿にされてきた。先生の家にはたくさんの種類の紅茶の葉と、その一角に圭太郎君専用の日本茶葉の置き場がある。

「向こうに行って、コーヒーが飲めなかったら飲む物ないんじゃない?」
 令依子さんは自分の分のカップに口をつけた。
「そしたら、紅茶を飲みますよ」
 圭太郎君は目を反らし、そしてわたしと目が合った。