「あら、早紀ちゃん」
「令依子さん」
空港の中で、圭太郎君を見つけるより先に令依子さんに出くわした。令依子さんはコーヒーショップの紙カップを両手に持って、わたしたちと同じ方向を目指していた。
「圭太郎の見送り?」
「はい」
令依子さんは酒井君に目を遣り、それからわたしに戻して、ふっと笑った。
「五月のあの時、私、随分きついこと言っちゃったわね」
歩き始める。わたしは何も返せずに、話の続きを待つ。
「言ったことは間違っていなかったと思っているの。せっかくのチャンスを、圭太郎には掴んで欲しかった」
コツコツ、と令依子さんのヒールが鳴る。わたしだって踵のある靴を履いているけれど、令依子さんのような歩き方にはならない。
不意に令依子さんは立ち止まり、わたしに顔を寄せて耳打ちした。
「あなたに妬いていたの、早紀ちゃん。私、圭太郎が好きだから」



