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空港への道は解りやすい。飛行機のマークのある標識を追って、高速道路を走っている。
「オーリープ、ゾーランクドゥリーベンカンスト」
"O lieb, so lang du lieben kannst"と、覚えたばかりのドイツ語のフレーズを口にする。酒井君はハンドルから左手を離し、わたしの右手を握った。
「調べたんだ?」
「先生の楽譜の中に書いてあったよ」
『愛の夢』の三番のタイトル。Oは感嘆、liebは英語のlove。全文を日本語にすると、「愛しうる限り愛せ」。
「酒井君は、いつから知っていたの?」
この言葉と意味を、圭太郎君の演奏を聴く前から知っていたとしたら。あの日の心中は、決して穏やかではない。それを少しも見せずにあんなに優しい笑顔をしたのなら。なんて、強いんだろう。



