pp―the piano players―

 ソファーの空いているところに座る。その加瀬さんの肩越しに見える、先生と圭太郎君の真剣な顔と、ライスターさんの背中。

「愛の夢」
 加瀬さんはカップを覗き込みながら話す。
「もともと歌曲なんだよ」
「リストが自分で気に入って、ピアノ独奏に編曲したんですよね」
 酒井君が相槌を打つ。

「よく知ってるな、酒井。三番の歌詞のタイトルは?」
 この質問の答えに、酒井君は窮した。その横顔を見ると、少し眉を眉間に寄せている。
「言いたくありません。悔しいから」

 わたしは加瀬さんに目を移す。加瀬さんは笑って立ち上がり、カップを持って台所へ行った。戻ってきた時には両手は空いていて、調律道具の入った箱を手に取ると階段を上がっていった。