pp―the piano players―

 圭太郎君はピアノを弾きたい。わたしはそんな圭太郎君を応援したい。
「今は下に行こう? みんな待ってる」

 わたしは決めたんだから。
 
「早紀」
 圭太郎君が、わたしの手首を掴んだ。
「それで良いのか?」
 わたしは頷く。

「俺は、いなくても、良いのか?」
 それには横に。
「とても不安で、寂しいけけど、大丈夫だよ」

 大丈夫、大丈夫。
 そう、自分に言い聞かせてきた。だから、立っていられる。

 圭太郎君は引きずるように身を起こし、立ち上がる。開いているドアに向かった。
 ケーキとお茶のおいしそうな匂いが、早くおいでと呼んでいる。

 が、圭太郎君はドアを閉めた。
「圭太郎君」
 圭太郎君は振り返って、わたしに奥のピアノの椅子に座るように言った。自分は入り口側のピアノの蓋を開け、座ってしまう。

 わたしは言われるままにピアノに向かい、腰掛ける。椅子には圭太郎君がいた温もりが残っていた。