pp―the piano players―

 ううん、と首を振る。

 酒井君は一瞬ぽかんとして、そるからあの、優しい笑顔になった。
「ありがとう」
 その声と一緒に、また酒井君の温かさに包まれる。

「大好きだよ、早紀」
 耳元で囁かれるのがくすぐったくて、その耳を酒井君の胸に当てる。目を閉じて浮かんできたのは、圭太郎君の顔だった。

 ねえ、圭太郎君。
 今日のことでわたし、こんなに圭太郎君のことを好きなんだなってわかったの。わたしはやっぱり、圭太郎君や先生の傍にいたくて、いてほしいんだって。そう思っているのは、わたしだけじゃないんだって。

 でもね、圭太郎君。
 わたし、圭太郎君が強がったり格好つけたりして、自分の気持ちを騙していることもわかったよ。あんなに素敵な演奏をする圭太郎君にピアノを教えてくれた先生の、その先生が呼んでいる。行きたくて行きたくてたまらないんでしょう?

 気持ちに嘘をつく役目はわたしが担うよ。
 だから、圭太郎君。

 行ってらっしゃい。