pp―the piano players―

 酒井君。
 酒井君は、一緒にピアノを弾いたあの日にも、わたしに気持ちを伝えてくれた。ありがとう、ごめんなさい。わたしはそんなありふれた言葉で、酒井君の気持ちをふいにした。酒井君は寂しそうに笑った。

 大学が一緒だったことには本当に驚いたけれど、また笑いかけてくれる酒井君を、わたしは。

「わたしは……どうしたら良いの?」

 酒井君がわたしの手を引いた。体が前に倒れて、それを酒井君に受け止められる。酒井君の腕がわたしの背中へ回って、強くつよく抱きしめられた。

「ごめん」
 酒井君が話すと、その振動が伝わる。速い鼓動が聞こえる。
「こんな時に、卑怯だって思うかも知れない。でも……耐えられないんだ」

 ずっとスポーツを続けている酒井君は、圭太郎君とは違う筋肉のつき方をしている。
「先にそんな辛い選択をさせる吉岡が、そんな困った顔をさせる吉岡が、僕は嫌いだ」
「酒井君……」

 酒井君の体が離れ、酒井君に見つめられる。酒井君は泣き出しそうな顔をしていた。