pp―the piano players―

「夢を叶えたい。そのために、大学院に進んで資格を得るんだ、って言ったね」
 そう。
「けれど」
 右手を閉じる。

「ここに吉岡がいる。天秤にかけようがない存在かも知れないけれど、確かにいるんだ」
 酒井君はその右手をゆっくりと下ろした。

「吉岡の代わりに、早紀の天秤に僕を載せて欲しい。そうしたら」
 酒井君の顔を見る。酒井君は優しく微笑んで、言葉を繋いだ。
「早紀はきちんと、夢を追えるから」

 それはつまり。
「酒井君を軽く思えってこと?」
「そう……なるかな」
「そんなの、おかしい」

 わたしは、酒井君の下ろした右手を持ち、元の高さへ上げる。
「酒井君も圭太郎君も、大切な人だよ。だから、二人を天秤にかけることも、代わりに考えることも、出来ない」

 酒井君は自分の我が侭だと言ったけれど、本当に我が侭なのはわたし。いつも誰かの優しさに甘えて、欲しい物が手に入らないと拗ねて、自分のやりたいことばかり優先させる。
 夢を諦めることは出来ない。
 圭太郎君が遠くに行ってしまうのは、応援したいけれど、寂しくて不安。