pp―the piano players―

 わたしが考えているモヤモヤしたものやイライラしていること、困っていることを、酒井君に話したり、見せたりすることが、酒井君の邪魔にならないと言うの?

 酒井君はわたしの手を離し、二つの握り拳を胸の高さで並べた。
「一つは、夢」
 左の拳を開く。
「もう一つは、大切な人」
 今度は右手を。

「これを心の天秤に架けて、早紀は揺れている。吉岡も、揺れている」
 圭太郎君の名前を口にする、酒井君の声が少し震えた。

「吉岡にとっては、ピアノと早紀。今、ライスターに招かれて、夢がどうしても重くなっている。でも、早紀を軽くすることが出来ない。天秤自体が曲がってしまいそうだ」
 見上げた圭太郎君の、あの泣き出しそうな顔を思い出す。わたしを圭太郎君の足枷と言った、令依子さんの声も。

「早紀の天秤にも、夢と、吉岡が載っている」
 わたしの夢。いつか酒井君に話したことがあった。