pp―the piano players―

 酒井君の答えは早い。だけど、どう違うのか、わたしにはわからない。

「迷惑なんか」
 全然、と首を横に振る。それから頭を掻いて、酒井君は言葉を探していた。何か言い出すのを、ためらっているような素振りに見える。

 酒井君の言う通り、先生を困らせたくない、圭太郎君を困らせたくないから何も言えない時がある。わたしを守ってくれているのを知っているから、それ以上の何かを求めてはいけない、と。
 ただ、圭太郎君は。
 ずっと一緒にいると言ってくれたから、そう言って手を引いてくれたから。

 酒井君はすっと立ち上がり、わたしの隣に座った。
「早紀」
 握りしめた手が、酒井君の手に包まれる。
「僕は、早紀が好きだ」

 手に力が入れられる。
「今日、一緒にいて思ったんだ。やっぱり僕は、早紀の傍にいたい。それは僕の我が侭なんだ。だから、早紀が僕を頼ることは、全然迷惑じゃない」

 頭の中で、酒井君の言葉を解いていく。
「むしろ、嬉しいことなんだ」