pp―the piano players―

 酒井君は、眩しい物を見るような目をした。

「早紀は、いつもそうだからだよ。一人で考えて、誰にも言えなくて、そうやって辛そうな顔をする」
 今日だって、と酒井君は言いかけて止めた。あの人のこと、圭太郎君のこと……色々なことがありすぎた。

「高校の頃からそうだった。でも、吉岡や『先生』には言えないんだろう?」
 わたしは小さく、頷いた。確かに、言われる通り。

「僕は、吉岡や先生ほど、早紀にとって近い存在じゃないんだと思う。でも、だからこそ、僕を頼って欲しい」

 頼る。

「引越しの時に……」
「それはそれだよ。僕は、もっと頼って欲しい。僕には話して欲しい。早紀に頼られたいんだ。そして、早紀を楽にしたい。笑っていて欲しい」
 酒井君の声が、少しずつ勢いをつけていく。

「僕の隣で、笑っていて欲しい」

 わたしは空になったカップを、テーブルに置いた。手にしたタオルをぎゅっと握る。
「それは、酒井君に迷惑をかけちゃうってことでしょう?」
「違う」