「指を見ただけでわかるなんて、酒井君もピアノを弾くの?」

「受験だから、今年の三月でレッスンは辞めたんだ」

 最後の大会に向けて、部活にも集中したいし。でも、事あるごとにピアノは弾いている。今までのテキストを引っ張り出したり有名どころのクラシックをちょっと触ったり、気に入ったポップスを耳コピしたり、自分で思うままにメロディを弾いたり。それはまあ、暇な時が殆どだけど、何か悩んでいる時や勉強がはかどらない時の確実なストレス発散方法になっている。そんなことを話すと、早紀はとてもわかる、と同情してくれた。

 彼女の指の動きが目に留まったのは偶然だ。でも、僕たちはそれをきっかけに意気投合。窓の外の雨はいつしか止み、低い雲の隙間から青空が覗いていた。