pp―the piano players―

 圭太郎君が顔を上げた。腕はそっと離されて、わたしの体に自由が戻る。
「悪い」
 そう謝る声はまだ弱々しくて、わたしは不安だ。わたしは圭太郎君の前に膝をついて座ったまま、その顔を覗き込む。

「令依子さん」
 圭太郎君は、令依子さんの方を向いた。
「その通り、ライスターが留学しろと言った。でも俺は、その場で返事が出来なかった」

 そして、わたしに視線が向けられる。
「信じられないだろ? どうしてあんな簡単な曲を一度聴いただけで、俺が測れるんだ」
 確かに、『愛の夢第三番』はあまりに有名で、超絶した技法が必要なリストの他のピアノ曲に比べて弾きやすい(あくまで、圭太郎君や先生のようにピアノを操れる人たちの間で、だ)。実力を測る物差しとしては、不適切と言えるかも知れない。

「それを言ったらライスターは、先生の弟子なら間違いないと答えた。先生に教わったヤツなんて沢山いるのにな」
 一番大事にされたのは圭太郎君で、そしてわたしなのは確かだ。でも実際は、先生の元でレッスンを受けていた人は少なくない。