「雨垂れ」

 僕がそう呟くと、早紀は指を止め、ぼうっと窓の外に向けていた目を僕に移した。

「雨垂れのプレリュード、ショパンの」

 早紀は伸ばしていた指を恥ずかしそうに丸めた。僕は自分の席に着いて、体を隣に向ける。ロングホームルーム中の教室の騒々しさは当分収まりそうにない。

「梅野さん、ピアノやってるんだ。音大志望?」

 渡されたばかりの模試の結果が書かれた紙は、裏返しになって早紀の手の下にある。早紀は首を横に振った。それから僕の顔を見る。