pp―the piano players―

 わたしに初めてこの曲を聴かせてくれたのは、加瀬さんだった。先生のCDから流れる音楽に、わたしは心を奪われた。
「美鈴さん、普段は弾かないんだってね」
 加瀬さんの言う通り、先生がいつも奏でるものとは雰囲気が違う。いつも先生の音楽にあったのは、自分への憤りや誰かへの愛情。ピアノの音色は感情を表現する、言葉だった。
 けれども、そのピアノの音色は言葉ではなく、もっと明確なかたちがあった。一つ一つの音は文章で、曲は鮮やかな物語だった。

 圭太郎君の弾く『愛の夢』は、先生のものより鮮明に見えた。

 スポットライトを浴びた歌い手が、テーマをゆったりと歌う。その歌声に身を委ねると、魔法がかけられた。見えないものに手を引かれ、華やかな光の場に連れ出される。そこには色とりどりの花々が咲き、そして水が流れている。心地よい風が吹いている。明るい、力強い歌声を聴きながら走り抜ける。
 不意に強い風が吹いてきて、花びらを舞い上げた。光が反射してきらきらと輝く。