会場が拍手に満ちる。その中を酒井君と二人、腰を屈めながら席に戻った。
「隣、座っても良いかな」
酒井君は、空席だったわたしの両隣のうち、左側に掛けた。
花束が演奏者に渡された。それでも、何人かはまだ渡さずに待機している。圭太郎君に贈る花束だ。
わたしには、一つの確信があった。圭太郎君はきっと。
『本日最後の演奏は、三年、吉岡圭太郎によります、フランツ・リスト作曲、愛の夢第三番』
アナウンスの声が変わった。令依子さんだ。
やがて圭太郎君が舞台袖から姿を現す。拍手が上がる。
「早紀、」
同じ方向を向きながら、酒井君は呟くようにわたしの名前を口にする。
「いつか、君たちの昔話を聞かせてくれないかな」
圭太郎君がステージの真ん中で、自信満々の顔でお辞儀をする。起き上がって目が合う。
見ていろよ。
そんな声が聞こえて来る。
「うん」
椅子の位置や高さを合わせて、右足をダンパーペダルの上に置く。圭太郎君は手を握って、開いて、一つ息を吐く。
両手を鍵盤に添わせ、歌い始める。



