照明が暗転し、四人目のピアニストが現れて演奏を始める。しかし、その音はわたしの耳に残らずに消えていく。
どうしよう、どうしよう。
焦燥感だけが支配する。
暗闇、怒号、罵声。
冷ややかな目線は体を芯から凍てつかせ、嘲笑は心臓を握り揺さぶる。息の出来ない苦しさ。
耳を塞ぎ、目を閉じ、体を強張らせている。行き場のないわたしは、泣き叫ぶことも逃げ出すことも出来ない。
差し伸べられた、一筋の光を掴むまで、は。
「早紀」
遠くから、名前を呼ばれた気がした。
「貧血かしら」
「今日は暑くなりましたからね。室内は冷房が効いているし……それで参っちゃったんだと思います」
目を開けると、整然と並んだ木目が見えた。年期の入ったシャンデリアは威厳があり、悠然と宙に浮いている。
「気付いたみたいよ、彼女」
声のした方を向くと、こちらを覗き込んでいる二つの顔に出会った。
「酒井君……」
わたしの髪を撫でる酒井君の手。穏やかな目と、緩く結んだ口元。



