pp―the piano players―

「圭太郎に言ってないなんて」
 さすがに気付いていると思ったけれど、圭太郎君には何も言えないままだった。圭太郎君も、何も言ってこなかった。
 加瀬さんの運転する車は心地よく揺れる。わたしは膝の上に地図を広げ、それと目の前の景色とにらめっこを続ける。

「俺は、美鈴さんと同じくらい長く、君たちと関わっているけど」
「何ですか」
「こんな風に別れていいのか?」

 交差点の赤信号が見えてきて、加瀬さんは車のスピードを緩める。
「加瀬さん、」
 声が震えないよう、お腹に力を入れた。
「別れるんじゃない、会えなくなるわけじゃない」

 信号が変わり、動き出す。
「大丈夫」
「大丈夫、か」
 加瀬さんはわたしの言葉を繰り返す。
「『わたしと圭太郎君はもっと深いところで通じ合っているのよ』って?」
 声色を変えて馬鹿にする。わたしは首を横に振る。