気が付くと圭太郎君の腕の中で、その顔の向こうに綺麗な月が出ていた。

「凄かった」

 圭太郎君が笑った。わたしはその笑顔を見て泣いてしまった。

 先生が客席に降りて、あのお客様と喋っているのがピアノ越しに見える。先生と同じ指に同じリングを付けた加瀬さんが、先生に大きな花束を渡していた。

 そして、先生と加瀬さんの姿がふいに見えなくなった。



 加瀬さんは、先生の細い体をぎゅっと抱きしめた。

 圭太郎君とわたしは、ピアノの後ろでキスをした。

 月の綺麗な夜に。四人の小さな演奏会が終わった。


fine