【長】純白花嫁


 上辺だけの社会では、その国全体を知ることはできない。
 苦しみながら生きている人もいる、その事実をこの目で確かめなければならない。

 なんかそんな使命感を感じてしまった。
 いや、もともとそのために出てきたものだとも言えるけど、それを目の当たりするとさすがに何とも言えない気持ちになる。

「はあ、なんか早くも帰りたい」

 人肌が恋しくなる、というわけじゃないけど、リュイスに会いたくなる。
 ん、また何かしら騒がしい。ドタバタと人々が騒ぐ音が聞こえた。今度は何?

「失礼します! 申し訳ございません!!」

 入ってきたのは、兵士のような騎士のような人。手軽な甲冑を身にまとい、手には刀が握られている。はっきり言って、場違いなのだけれども。

「……部屋間違ってませんか?」
「あぁ、失礼しました! 用件を言い忘れていました!! 私は、殿下から合歓様に護衛として派遣されたものです!」

 護衛? あぁ、そういえば付けるって言っていたような。目立つのがいやだから、後ろでこっそりしてもらうってことにしてもらったはずだった。
 でもこの騒動でも出てこなかったから、存在そのものを忘れてしまっていた。

「なるべく合歓様の邪魔にならないようにと思い、別の宿に泊っていて、事情を朝聞いたのです! 気付くのが遅くなってすみません、もう護衛失格です!! 各なる上はこの命をもって償わせて……」
「いや、やめて!! わたしなんかのためにそんなことしないで! そもそも無事だったんだから、いいじゃない、それで」
「しかし、殿下からこんな大役を仰せつかってきたのに、何もできなかったどころか、命の危機までさらしてしまい」

 だめだ、埒が明かない。