「話を聞くよ。ただし、この人も一緒に聞くけどね」
そう言って、宿の女将さんに目配せをした。
そして相手と改めて会うと、特に怪しいとも思わない普通の人だった。
どこにでもいそうなおじさん。いやお兄さん?
「ああいいさ。あと回りくどいことは苦手だから単刀直入にいわせてもらう」
わたしがうなずく隣で、女将さんは憤りを感じているようだ。皇族関係者になんて口をきくんだと。
別に気にしていないけど、そんな風にされるとこちらも少し気分が悪くなるもの。
ため息をつきながら、その男の話を聞くことにした。
「おれたちの住んでいる村を救ってほしいんだ」
「救ってほしいって、わたしはヒーローでもなければ、魔法使いでもないから無理だと思うけど」
「続きがあるんだ。おれたちの村……ムゥというんだが、ここ3年ほど旱魃で、ろくな食い物がない。隣の町や州に頼んでも、ムゥは小さい。話すら聞いてもらえない」
痩せた体に、粗末な服、それを見た時点で決して裕福というわけではないのは感じ取っていた。
でも本当にどうすることもできないのに。
「それで、わたしに何をして欲しいの?」
「町や州はだめだ、ならもう国に直談判するしかない。出稼ぎに来ていたところに、皇族の人間がいると聞いて、無我夢中になっていたんだ」
だからって無茶にもほどがあるでしょうに。国ともなれば、下手すれば死。
でもそこまで困っていたのかと思うと、わたしは何も言えなかった。
相手も、体が身震いしているのが分かる。今この時すら、命の危機を感じ取っているのかもしれない。
その綱をわたしが握っているのかと思うと、非常に恐ろしく思えた。


