あれ以降、何もなく平和に過ごせた。……なんてことなかった。
翌朝、騒ぎを耳にして目を覚ます。声の大きさからすると、この近く。
「困ります! 誰か、止めて!」
人々の声はすぐ近くにまで来ていることくらい分かった。ただ、なぜこちらにむかってくるのかは分からない。
そんなことを考えていた時。音を立てて扉が開く。
「お願いだ、話を聞いてくれ!」
「あなたは」
はっきり言って思い出したくない。あの風呂での人だ。
一瞬だったし、あまり見てないからよくわからないけど、声だけは分かる。
「何ですかッ、あなたは!」
後から来た人たちに、取り押さえられる。それでも暴れる。わたしの中を再び恐怖が支配する。
自然と体は後ずさる。今は人もいるし、怖いことなんてない。分かっていても、心はついてけない。
「昨日のは悪かった、ただ皇族関係者が来ていると聞いて、話を聞いて欲しかったんだ」
その必死な姿に、訳があるのは伺えた。ここにきて、わたしの本来の意味を考えさせることになるなんて、まだ気づいていなかった。
「話があるということは分かった。ただ、宿の人も同席してもいいのなら、聞くよ」
「あぁ! それでもいい。話がしたいんだ」
そう決定したところで、いったん退席してもらった。ちゃんとした服を着ていないっていうのもあるし、お腹がすいたからご飯を食べてからという理由がある。
準備が整ったところで、宿にある一室で話を聞くことになった。


