「いゃぁぁあぁ!」
気がついた時には叫んでいた。恐怖を無意識のうちに感じた結果だろう。
叫びながら腕で湯をはじく。悲鳴に水音まで交じり、宿の中も騒然としだした。
「来ないで!」
「うわっ、濡れる! や、やめろ!」
そして知らない間に変質者に向かって湯をかけていた。
そしてよく見ると、怪しいものは持っていない。まさか体一つで乗り込んだ? 本物の変態?
次には濡れている床を走り出し、転けて、湯船に激突。放心状態だ。
「今のうちに」
急いで脱衣場に戻り、服を着て、騒ぎ始めている人だかりの方に逃げた。
「大丈夫でしたか?」
「すごい悲鳴でしたけど」
助けてくれる人たちに出会ってようやく落ち着いた。
「後はうちらに任せて、お部屋でお休み下され」
「そうさせてもらいます」
女将さんに支えられながら、部屋へと向かった。
濡れた体を拭かずに出たせいか、少し寒い。落ち着かない心を必死に止めようとしていた。


