【長】純白花嫁

 しかしその母から返ってきた言葉は意外なものだった。

「あやつはそういう人間なの」

 憂いを含んだような表情の奥までは読めない。

「私はあやつとは公の場でくらいしか話したことがないから」
「え、どうして……」

 リュイスは今21歳。その21年もの間、何をしていたというの。

「単純なこと。憎いからに他ならない。……あの皇王も、その血を引く皇子も」

 それは到底夫と息子に当てた言葉とは思えぬほど、他人事のような物言いだった。

「だから。私と同じように苦しんでいる者がいるなら助けようとしたまで」

 彼女の中でわたしは「悪の皇子に囚われた娘」だったのだろうか、時々感じる憐れみの目線の正体はこれだったのかもしれない。
 わたしは何も言えず、少しあいた口に一口のお茶を飲んだ。
 ……喋れない、喋っていたくない。

「本当のところはどうなの」

 これではまるで悪魔の囁き。ゆっくりと少しずつ、本音を吐かせるための。