軽く小一時間。その間は、あっという間だった。光陰矢の如し、もあながち嘘じゃない。
 わたしの部屋にリュイスが引っ越してくるみたいで、荷物が乱雑に置かれていた。
 それでも部屋は寝室部分だけでも充分に広い。あの小さな我が家のリビング、ダイニングの三倍近くある。

 疲れたまま、久しぶりのマナー講座になった。

「合歓様、お久しぶりです。本日もよろしくお願いしますね」

 出迎えてくれたのは、優しい雰囲気のアリサ。ただし、見た目に騙されちゃいけない。

「お願いします。おかげでだいぶ慣れてきたよ」

 特に食事のマナー。持ち物に始まり、食器の使い方からおかわりの仕方まで余計なことまで覚えてしまったけどね。

「謁見のお話、聞きましたよ。すごく威厳があったそうですね。さすが合歓様」
「いえ、それで今日は?」
「前回行った食事作法のおさらいとその際の社交マナーについて行います」

 はきはきとした声。いつも元気だよね、アリサ。


「さて、ここにすでに準備してあります」

 示された先にはテーブルに、ご馳走。でも食事後なので、お腹はすいていない。
 椅子に座ろうと、移動しようとしたその時。
 アリサの深い色の瞳が光った。一瞬の間だけ。

「誰です! 神聖なマナーの儀式に入り込んだ命知らずは!」