時刻は夕陽に彩られる頃。
 部屋に戻ろうと、座っていた体を立ち上げる。晩御飯までは、あと1時間ほどある。特に何をするわけでもない。かといって、何もないとつまらない。そんなことを考えていた。
 わたしが今住んでいるのは、小さな離れのような場所なのでそんなに迷うことはない。もともと方向音痴でもない。感覚で歩いていたらたどり着けるタイプだから。
 この場所からも見える大きな宮殿。多分あれが、本宮殿のような処なんろうな。眺めるだけで、わたしには立ち入ることが赦されていない。
 現在は、庭と離れだけがわたしの世界。改めて思えば、監禁されているみたいかも。
 かといって、不自由なことはないから文句も言えないのだけれども。

 なんて考えながら部屋の扉をゆっくりと開ける。博物館の展示物でしか見たことのないような、豪華な扉は開けるのに勇気がいる。だからこそ、両手で静かに開けているのかもしれない。


「おかえり」
「って、何で勝手に人の部屋にいるの」

 この部屋の住人はわたし。わたしが外出中だった今、中には誰もいないはず。なのに、なぜ少し気の抜けた声が聞こえるのだろう。

「管理者の授業はもう終わったはずなのになかなか戻ってこないから、勝手ながらも中で待たせてもらったよ」
「それは不法侵入じゃないの?」
「でももとは私の家の一部だから」

 ……屁理屈にしか聞こえない。でも言っている事はあっている。あくまでわたしは“住まわせてもらっている身=居候”だもの。
 でもそこまでいやじゃない。今まで家に帰っても一人ぼっちの鍵っ子だったから、家に誰かいてくれるのはすごく嬉しい。
 なんかこう、こころの中がくすぐったい。