え、ナーディアさんじゃないって。もしかして、名前すらも記憶にないの?
あまりにも驚いて次の言葉が出てくるのに、時間がかかった。
「あ、わたしは合歓」
「ねむ……木の名前なんだ。私はナーディアじゃない、みんなそういうけど違うの。私はマナ」
マナ? この国じゃあまり聞かない名前だけど。
「そうなの、じゃあマナちゃんって呼ぶね。何歳か分かる?」
「16」
「じゃあわたしより年下になるか、わたしは18だから」
ふーんって、興味のない声がする。明らかにこの場というかこの国において、異質な存在だ。
どこか遠くを見据えて、ある意味悟りを開いたような感じもする。
というのも、こんなことを言ったからである。
「あなたはこの国の人じゃないね、そうでしょう」
一体、彼女は何者なんだろう。記憶を失ったにしては落ち着いているし、何より知識が豊富なのは話をしていて伺える。
わたしの名前、合歓はたしかに木の名前が由来だ。
合歓は夏の木、そして綺麗な紅い花弁の花も咲く。夏生まれのわたしに、木のように長く成長し、花のように可憐さも持ち合わせて欲しいということが由来。
まあ実際は、神経図太く、可憐さなんて遠い成長を遂げてしまったが。
でも、その木はこのシロラーナにはない。
じゃあなんでそのことを知っているの? 他の国にはあるか分からないけど、木の名前だとすぐに気付くなんて。
「逆にわたしも聞きたいけど、あなたも外国の人?」
そう言うと、今まで上の空だった彼女の目に光が宿る。その瞳がわたしのじっと見つめてきた。
そして、じっと見ていたかと思うと、彼女はゆっくり頷いた。


