桜の花も咲き始めてきた日。
 わたしは学び舎を卒業した。思っていた以上に落ち着き、泣くこともなかった。
 たぶん、まだわたしは実感がないんだ。卒業したという事実に、そして世界と離れるということを。

 最後だからと卒業式に参加したお母さんの方がぽろぽろ泣いている。

「いよいよ合歓もこの街とはさよならになるね」

 何気ない一言。大学で土地を離れるからという意味で言っているだけだろうけど、わたしには少しきつかった。

「今日は卒業記念とこれからの生活へのお祝いも兼ねて、何処か食事にでも行きましょう」

 何も言えない。
 ただ向こうはそのつもりらしく、夕方までに準備をしておきなさいと笑いながら言ってきた。


 高校卒業をしたから気になることはあと一つ、親のこと。
 どうしよう……。
 チャンスは食事の時しかない。



 結局、わたしの心は本当のことは言えずにいる。なら、これまでの感謝だけでも伝えよう。

 夕方6時、親子3人で小洒落たレストランに来た。はっきり言って味は覚えていない。

「合歓ももう大学生だなんて早いな」
「そうね、こないだ入学したばかりなのに」

 思い出話に浸りながら、これからのことについて話そうとした。

「あ、」
「一人暮らしは大丈夫かしら、料理できる?」
「コンビニ弁当ばかりは体に悪いからだめだぞ」