わたしの中で、新たな変化が生まれたのはこの時だったと思う。
 小さいころから住み慣れた家ですごすのも最後になる、思い残しのないようにしたい。

「でも、わたしって弱気だよね。結局何も言えないんだもの」

 一人ぼっちの部屋で、家族にお礼を言うことも、これからのことを言うこともできず、何とも言えない気持ちになる。
 部屋の外に居る親のことを思うと、どうすればいいのだろうと考え込む。

「ご飯できたよ」
「あ、はぁい」

 お母さんの声を忘れないように聞きながら、階段を下りる。
 懐かしい匂いを感じることももう最後になるかもしれない。

(ご飯の味も忘れないようにしよう)

「今日は時間がないからお惣菜を合わせたものしかないけど」
「ううん、それでこそ我が家だよ」

 お父さんとお母さんの笑い声が聞こえる。確かに、豪華なフルコースの方が珍しい。
 今日みたいな方が普通だよね。

「合歓、家に居る間に準備はしているの?」
「あ、うん、まあ」

 出来ているといえば、出来ている?
 本当のことをいうことをできずに、曖昧に口を濁す。

「大丈夫だから心配しないで」

 そんなことばかり言いながら、無駄な日を過ごしていく。
 日に日に期限は迫ってきていた。