「合歓には元の世界でも生活があった。それとお別れしなくてもいいの?」
その言葉を聞いて黙り込んだ。
もう悔いはない。こちらで生きる価値を見出したから。
「向こうの世界と終わりを告げる、けじめじゃないけど……こちらで過ごすということは向こうでの合歓という存在がなくなるってことだから」
「わたしがなくなる?」
それはこれまでの18年間の日本人、涼城合歓との別れ。
そう言えば、こっちと向こうじゃ肉体も違っていた。
鏡のあるところまで歩く。この白金の長い髪にも、血のような赤い目にも慣れてきて、忘れていた。
「おれも一緒に言って、挨拶とか出来ればいいけど出来ないから。これを最後に秘玉の行き来の力も喪ってしまう」
「それは知ってた。だけど、向こうにいったらやっぱり帰りたくないって思うかもしれない! それが怖いのよ!」
そう言うとリュイスは、声をあげて笑い始めた。
「合歓、シロラーナを帰る場所と思っている時点ですでにこちらの人間になっているじゃないか」
恐れることはない、待っているから、行ってきたらと言われた。
帰る場所、そう思えると幸せだ。
わたしはそのまま、意識を手放した。