【長】純白花嫁

 刹那、時が止まったかのように思えた。その空間だけ、動かないように。

「形式、つまり形だけでも式をあげましょう」

 いろいろ聞きたいことはある。なぜ形だけなのか、なぜ今になってなのか。
 キリがない。でもそれを聞くことはできなかった。すでに向こうが話を始めているから。

「秘玉の完成にはまだ時間はかかる。でもいいでしょう」
「そんなことで決めていいの」

 フロウの決定権は大きいと確かに思う。彼女が裏で国を操っているのではないかと思うほど。

「一応言っておきますが、秘玉の完成が正式な妃の誕生になります。だから形式だけという意味になるわけです。だからこれまで通り、向こうの世界に戻ることもできます。ただ、それは自分の意思で決めてください」
「自分の意志?」
「戻るもよし、戻らなくてもよし。ただし、正式に完成したら戻れなくはなります」

 まっすぐ見つめられる。動けない。フロウの鋭い視線には何らかの力があるのではないかと思うほどに。

「最後の別れがしたいのなら、これが最後のチャンスというわけになるでしょう」

 その言葉に、今更になって心が揺らいだ……なんてこと、誰にも言えなかった。

「皇王たちにはこちらから話をしておきます。あと、貴女の考えも。この国に新しい風を吹かせてくれることを願って」

 それじゃあと、扉に向かって歩いて行った。
 その堂々と歩く姿は、とても羨ましく思えた。