びゅーんって
風みたいに人が駆けて行った。
人があんなにも速く走るなんて…
カレがいなかったら、この先、ずっと、ずっとずっと
知らなかっただろうな…。


「桐生!お前タイム上がったぞ!すげぇなあ。やっぱアレか?
高校は西条に行くのか?!」


白いTシャツに青いハーフパンツ姿の男がストップウォッチを持って嬉しそうに、風に…桐生と呼んだ人に話しかけた。


西条高校…偏差値も高くて、陸上部が強いことで有名な高校。
カレはきっとすごく足が速いんだろう。



西条…



あたしの学力じゃ到底ムリ。
でも、行きたい…。
カレが行くのならば…



カレは何か答えているようだけれど、聞こえないどころか、口の動きすら分からない。
男なんだからでっかい声で喋ってナンボだろ!!←


「ええええ!!もったいない!お前なんで北高なんか行くんだよ!
あそこ県大会どまりじゃねぇか!」


思いが、(もともと)声のデカイ方につ・う・じ・た?!
デカイ声よ、万々歳っ★


「はああ??近いから!近いから北高なのかよ!!もったいねぇよ…
そんなに才能あるのに…お前、マジでムカツクよ…」


なんだか志望動機まで(声のデカイのから)
聞けちゃって(聞こえちゃって)
ラッキーだし。
北高なら行けるっ(かも)




フェンスに囲まれたグラウンドを走るカレを見つけられて、よかった。
なんだか初めてこんなにも胸が熱くなった。


「勉強、しよう…!」