魔法の指先

なぜこんなにも彼は優しく接してくれるのだろう。不思議でならない。

その後私たちは名残惜しげにお互いの体を離し、一緒に後片付けを始めた。なんだか新婚夫婦みたいでこそばゆい。

『今日は本当にありがとうございました』
「こちらこそ。サラちゃんによろしくね」

12時を過ぎたその頃、後片付けも終わって私は義人さんを玄関まで見送る。

『はい。おやすみなさい』
「うん、おやすみ」

彼は笑顔を残して去っていく。その大きな背中がなんだかいつもより遠くに感じた。

明日の撮影に備え、私は義人さんに一通メールを送ってから眠りについた。いつもよりぐっすりと眠れたのは多分、彼に会えたからだろう。

いつの間にか彼の存在は私の心の支えになっていた。



翌日、目が覚めたのは朝の7時だった。目覚めのいい朝で散歩したいくらいだ。

カーテンの隙間から差す光が部屋を明るくする。

ソファーでまだぐっすりと眠るサラを起こさないように私は朝食を静かに作った。サラダにスクランブルエッグ、そして食パンと淹れたての珈琲。いつも通りの朝食。

「……ん…」

サラが寝返りをうちながら声を漏らす。

「………秀哉」

そう、聞こえた。

秀哉。私の知らぬ名前だ。私以外に日本人の知り合いがいるなんて知らなかった。寝言で言うくらいなのだから、きっと大切な人なのだろう。と、勝手に思っていた。

その数分後に彼女は目覚めた。昨日、飲みすぎたのか2日酔いらしい。頭を押さえている。

(てゆーか未成年なんだから飲むなよ…)

私は心の中で呟く。言っておくが、私は昨日、一切お酒は飲んでいない。炭酸ジュースで我慢した。事務所に固く禁じられているのだ。喫煙、飲酒は厳禁。今の時代この法律を守る若者は数少ない。だが、この業界にいるかぎり守らなければならない。世間にバレたら、厳しい処分が下る。

「うぅ~……頭痛い」
『飲みすぎるからだよ。頭痛薬飲む?』
「うん、ちょーだい」

私は救急箱から頭痛薬取り出して、それを彼女に渡した。

『サラは今日どうするの?私はまた仕事あるけど来る?』
「ううん、今日は止しとく。事務所に行って、契約書とか書かなきゃだし」
『そっか、まぁ頑張れ?』


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