魔法の指先

琢磨さんに軽く挨拶してから私たちは店を出る。気前よく今回の支払いはサラがしてくれた。

『ありがと』
「いいよ、今度心亜が奢ってね!」
『もちろん』

その後、2時までの1時間弱、有意義に過ごした。[Golden apple]というお洒落なその店で。

サラのお気に入りの店だけあって80年代風のレトロな家具がズラリと並んでいた。見ているだけでも楽しい。

『こんなお店あるなんて知らなかった』
「でしょ?私もこの間知ったばかりなの」
『相変わらず、詳しいね。日本に』
「心亜が知らな過ぎなの。この店結構人気なんだよ?」

確かに、普段街へ出掛けることが少ない私は人よりも疎いかもしれない。時間に余裕がないというのもあるが、1番の理由は1人で出掛けてもつまらない。ただそれだけ。



「『おはようございまーす』」

時間になり、2人でスタジオを訪れる。数名のスタッフが世話しなく動き回っているその中に左海さんはいた。

昨日の話がリプレイされる。

「あれ?……サラ…ちゃん?」

作業を途中で止め、こちらへやって来たかと思うと彼女の存在に気付き、彼は一瞬立ち止まる。

「久しぶり~遼ちゃん!」
「ぁ…ひ…久しぶり。いつこっちに?」
「ん~今日!!」
「……ιそう、なんだ」

今更彼女のサプライズに驚いてもキリがない。いつものことだ。

「あ、そうだ心亜ちゃん。昨日ありがとね、返事は急がなくてもいいから」
『……はい』

まだ私が悩んでいることを知ってか知らずか左海さんはそう一声かけてくれた。

「昨日?」
『私たち、向こうで待ってますから準備できたら言って下さい』

サラが疑問符を浮かべて首を傾げていたが、説明するのが面倒なので私は無視した。

「了解。衣装汚さないようにね」
『わかってます』

私たちはスタジオの隅に置いてあるパイプ椅子に座った。この季節にはまだ肌寒いキャミソールワンピースの上にカーディガンを羽織る。

「ねぇ、昨日って?」
『…ちょっとね。帰ったら話す』
「…ふーん?───それより、この撮影ってなんの宣材?」
『新作の香水の宣材。確かPRIMAVERAっていうブランドの』


.