パリ・ローマ幻想紀行

モナリザの口元を隠し、モナリザの目だけを見たときに、何か一点を見つめて、その視線が脳の一点に集中している悟りの境地を感じさせる。ミケランジェロのように、悟りの世界が心まで希釈化された静寂ではなく、心まで到達する手前の悟りそのものの静けさを感じる。イエスのことばと、ミケランジェロの彫刻は一点に融合しているように私には見えるが、ダビンチのこのモナリザは融合して見えない。周りの雑音が消えた。
「あなた自身、この絵は未完成だと言っていますね」
「その通りじゃよ」
「どこが未完成なのですか?」
「あなたには見える筈じゃが」
「モナリザの目だけを見ていると、静寂を伝えようとしているあなたが見えます。ただ、一点を凝視している視神経が、脳に集中しているように見えます。静寂が失われているように思います」
「そうじゃの」
「あなたは、この視神経を心にまで広げて希釈し、あなたの静寂を出すために、微笑みの口元を添えましたね。洗礼者聖ヨハネの口元ではいけませんよね。眉を書かずふくよかな女性も、この目に添えましたね。ミケランジェロの嘆きのマリヤにはそのような視線はありません」
「そのように見えるか」