パリ・ローマ幻想紀行

「皆さん、右側をご覧下さい。ウンベルト一世のガレリアです。今からおよそ百年前に建てられたアーケードです。ナポリの若者達の待ち合わせ場所として、賑わっております」
 私は、人込みとアーケードの一部をビデオカメラに収める。やがてバスは高級住宅街を抜けて、急勾配の登り坂を走った。高度を上げるにしたがって、ナポリ湾の展望が開ける。バスは、一番見晴らしのよいところで停車した。
 旧市街のスパッカ・ナポリ、交通ルールのない自動車、窓拭きの少年、カステル・ヌーヴォの城など、全てを飲み込んだ大まかな景色が見る者を感嘆させる。遠くに、カプリ島が微かに見える。湾に包まれた海面は、湖面のように静かであり、飛行機雲のように白波を長く残して滑る高速艇が右方向に一艇、左方向に二艇いた。湾の陸側の斜面には、背の低い家々が、ギラギラする太陽の光を受けて、所狭しと緑の中に埋まっている。なるほど、この大まかなパノラマは素晴らしい。ビデオカメラマンとしての腕の見せ所である。伊沙子さんは、帰りのバスの中で「綺麗な町ね」と一言もらした。バスはコロンボ通りからカラカラ浴場通りを進み、途中でカラカラ浴場の遺跡を車窓から眺めた。ローマへの帰り道、交通事故による渋滞に巻き込まれ、ホテルに着いたのは相当に遅い時間であった。