パリ・ローマ幻想紀行

「皆さん、ご覧下さい。駐車している車の方向が一定ではありません。路面電車の前後を車が走っています。日本では考えられないことです。道路には南国を思わせるソテツが植えられています」
 私は、ガイドさんの説明に合わせて、これらの景色をビデオカメラに収めた。生活の息吹を記録するためである。やがてバスは左折する。レスビオ火山が正面に遠く霞んで見えるムニチピオ広場を通り、海岸沿いを走るコロンボ通りに出た。先ず、目に入ったのは、ゴツゴツとして、ずっしりとしたカステル・ヌオヴォの城である。円筒状の隅櫓(すみやぐら)で支えられた無骨で黒々と座っている様には華やかさはない。隅櫓の頂上は凸凹になっていて、漫画の世界に出てくる城を思わせる。見る者にとっては、ナポリのイメージからかけ離れた感じがする。勿論、私はビデオカメラに収めた。
 バスは、コロンボ通りを右折し、海岸沿いに走った。車内には絶え間なく、カンツォーネが流れている。心地よいリズムである。海岸には多数のヨットの帆柱が見えていた。ポンペイとのコントラストがそうさせるのか、現代の活気に満ち溢れていた。相変わらず、太陽がギラギラしていた。コロンボ通りの交通量は極めて多い。バスがプレビシト広場のところで右折する時に、少し渋滞した。少年がバケツと雑巾を持って、忙しそうに自動車の間を縫うようにして歩いている。渋滞の僅かな時間に、汚れている車の窓を拭いているのである。ガラス窓一枚が幾らなのだろう。私はビデオカメラに収めた。
 王宮をちらりと横目で見ながらバスは進み、ウンベルト一世のガレリア横で、バスの速度を落とした。