パリ・ローマ幻想紀行

その店員さんは、その黒珊瑚を、同じようにウインドの上に並べる。伊沙子さんは暫く考え込んでいた。伊沙子さんが買い物をする何時もの駆引きをするポーズである。
「これでどうでしょう」
店員さんは、電卓で値段を示す。確かに、私が見ても、この黒珊瑚のネックレスは、他のものよりもいいことは認められる。伊沙子さんは、なおも沈黙しながら、ウインドの中を覗き込んでいる。ベテラン店員の駆引きには負けないものがある。
「うん、そうね」
伊沙子さんは、さも無関心を装って、ウインドの中を見ながら答える。
「貴方には、お似合いですよ」
伊沙子さんの無関心さを正するかのように、店員さんは、そのネックレスを伊沙子さんの首にかける。伊沙子さんはなおも首を傾げて沈黙する。
「さぁ、早くしないと時間だよ」
私は伊沙子さんにそれとなく告げる。その店員さんは私の動きを悟ったらしい。店員さんは、焦り気味に、
「じゃ、これでどうでしょう」
また電卓で値段を示す。
「そうね、これにしようかしら」
「うん、いいんじゃない」
「日本では、この値段で手には入りませんよ」