パリ・ローマ幻想紀行

(7)トレヴィの泉
 バスは、オンペリアーリ通りから、ヴェネツィア広場を通り、広いコルソ通りの道路脇に停車した。トレヴィの泉は、ローマの中心にある。このコルソ通りから、狭い石畳の道に入る。ローマの生活の臭いがするこの狭い石畳の道は、路地のように幾筋も分かれていた。そして、ビデオカメラを回しながら人の流れに乗って、数分歩いた。観光客の流れを縫うように走る、軽自動車とオートバイに出会った。多分どこかへ買い物にでも行くのだろう。
 この凸凹した石畳の狭い道は、両側に立ち並ぶ石造りの建物で挟まれていた。太陽が照らすのはごく僅かな空間と時間であろう。この日陰の石畳を暫く歩いたところで、突然に視界が開け、太陽がギラギラしている空間に出た。そのぽっかりと開いた空間に、トレヴィの泉があった。相変わらず、観光客でごった返していた。
 泉の背景に凱旋門を形取ったアーチ形があり、この凱旋門の左側に五本、右側に三本の石柱がある。まるで、この石柱に支えられた、石造りの宮殿を思わせる。そして、二頭の海馬に引かせた貝殻に乗って、海の神がこの凱旋門から出てくる構図である。二頭の海馬の手綱は、半人半魚のトリトンが握っている。ゴツゴツとしたところを、幾筋もの小さい滝が、ザワザワと流れて、ふもとの泉に落ち、その水面に小さな波を立たせている。このバロック形式の建造物は今も生きており、滝の流れる音と水面の波は、現在においてもその生命力を湛えている。観光客を除けば、この景観は今も昔も変わるところはないような気がする。権力、地位、富の《粕》となった遺跡ではないからである。