バスから降りて、遺跡に触れたのは、このコロッセオが最初であった。当時を偲ぶことができても、このコロッセオから、語りかけてくるものは何もなかった。権力、地位、富の《粕》だからかもしれない。建築技術としての生命力はあっても、私からは、この遺跡は既に死んでいた。私は伊沙子さんとの会話を録音しながら、ビデオカメラのレンズの中に、伊沙子さんを追った。
「ねぇ、この地下室の上に板が載せられて、その上に砂が敷かれていたそうよ」
「うん」
「猛獣の死骸や、人間の死骸をこの地下室に落として、石ころのように処理したそうよ」
「うん」
私は、ビデオカメラを回しながら、短く返事をする。煉瓦造りの壁から剥き出しになっている鉄の棚が、太陽熱で熱せられていた。その棚越しに地下室を見ていた伊沙子さんが、その棚に触れてアチッチチと言う。伊沙子さんは、観覧席をさーっと眺め、もっぱら地底に心を向けているようである。全体が黒く、そして暗いこのコロッセオからは、それ以外に何も見えなかった。時計を見て、私と伊沙子さんは、コロッセオの外に出る。
コロッセオの回りは、舗装されていなかった。太陽熱によって乾燥仕切った土埃が、靴を白くする。例の写真屋が、次の団体を集めているのを横目に通り過ぎ、凱旋門へと向かった。そして、この凱旋門をバックに伊沙子さんの写真を撮った。私も、貴重な一枚を撮ってもらった。
「ねぇ、この地下室の上に板が載せられて、その上に砂が敷かれていたそうよ」
「うん」
「猛獣の死骸や、人間の死骸をこの地下室に落として、石ころのように処理したそうよ」
「うん」
私は、ビデオカメラを回しながら、短く返事をする。煉瓦造りの壁から剥き出しになっている鉄の棚が、太陽熱で熱せられていた。その棚越しに地下室を見ていた伊沙子さんが、その棚に触れてアチッチチと言う。伊沙子さんは、観覧席をさーっと眺め、もっぱら地底に心を向けているようである。全体が黒く、そして暗いこのコロッセオからは、それ以外に何も見えなかった。時計を見て、私と伊沙子さんは、コロッセオの外に出る。
コロッセオの回りは、舗装されていなかった。太陽熱によって乾燥仕切った土埃が、靴を白くする。例の写真屋が、次の団体を集めているのを横目に通り過ぎ、凱旋門へと向かった。そして、この凱旋門をバックに伊沙子さんの写真を撮った。私も、貴重な一枚を撮ってもらった。



