パリ・ローマ幻想紀行

私は、伊沙子さんのパスポートを懐深くから取り出した。店員さんは、私のこの仕種を見て、陽と陰の関係を悟ったのか、それとも伊沙子さんの質を悟ったのか、柔らかく穏やかな眼差しを私の方に向けた。
 私のものは何も買わなかった。その店を出て、暫く車で走り、甥が通いなれている喫茶店に立ち寄った。そこの女主人との気安い応対でそれが判った。勿論観光客が来るような店ではない。
甥の車の走るがままであったので、地図の上でその場所を示すことはできないが、そこはパリの裏町であった。店内はそれほど広くはなかった。照明の加減で、店内は薄暗かった。多分、この近所に住んでいる若者だろう。四~五人の客が居た。私達が入っていったら、人なつっこく、何か話し掛けたそうな顔で微笑みながら視線を合わせてくれた。甥は久し気にその人たちにフランス語で二言三言声をかけて、一番奥のテーブルに座った。