パリ・ローマ幻想紀行

先ほど身振り手振りで道を教えてくれた素朴さを感じさせるパリッ子とは違い、伊沙子さんとこの女性との間の対照は、愉快に見える。私はこの光景を肌で感じながら、パリの一場面としてビデオカメラに収めた。時間と視覚が枠に填められた観光客には味わえない感触である。本来なら、由緒あるオペラ座を見るのが観光客の姿であろうが、その建物を尻にして階段に座り、パリッ子と同じように待ち合わせをしている気分の方が私には満足感があった。
 やがて、一台の車を見付けて、従兄弟は待ち焦がれた気持ちを発散しながら確認に走った。そして、私達に向かって大きく手を振った。私達は小走りに、鳩の群れを掻き分けて走り、その車に乗り込んだ。せっかちな彼に対する思いやりである。私は甥の小さい頃は知っていたが、初対面と同じである。伊沙子さんは、勿論初対面である。
「こちらは、従兄弟の仁さん、こちらは伊沙子さん」
「伯父さん達のことは、かねがね伺っております、よろしく」
「こちらこそ、よろしく」
伊沙子さんは例の明るい笑顔を交えながら、気安く話せる会話の糸口を引き出し、会話が弾む。
「フランスに来て、随分になるんでしょ」
「ええ、十五年ほどになります」
「いいわね、パリって」