パリ・ローマ幻想紀行

「一個も持っておりません」
「どうじゃ、一個ぐらいは欲しいじゃろ」
「欲しいです」
「それが豊かさじゃ」
「どういうことですか?」
「それじゃ、私がダイヤモンドを二個あなたにあげるといえば、受け取ってくれるか」
「はい、受け取ります」
「まだ、欲望が満たされていないのじゃな、それが豊かさなのじゃよ」
「欲望が満たされないことがですか?」
「そうじゃ」
「矛盾しているように思います」
「そうかも知れぬ。だけどのぉ、矛盾していないのじゃ」
「イエスのことばのように、貧しいものは幸いである、悲しむ者も幸いである、敵を愛せよ、自分を迫害する者の為に祈りなさい、ですか?」
「そうじゃのぉ、世間ではこのことばも、矛盾しているよのぉ。だけどのぉ、このことばは葛藤の中から生まれるのじゃ。そしてのぉ、そのことばが生まれた時に静寂が訪れるのじゃよ」
「欲望が満たされないから、心の葛藤が起きます。心の葛藤が起きた時に、限界が見えるのです。そして、更に別の葛藤が始まるのです。ここまでは解ります」