パリ・ローマ幻想紀行

「私は、この絵の中の赤い馬に跨った人に静寂が見えるのです。その人の太股に反射している太陽のギラギラした光が見えます。赤い馬に跨った人には、素朴、無口、思い詰めた眼差しはありません。生き生きとしています。森の外は太陽にギラギラ照らされ、森の下はしっとりと水分を含み、土の匂い、草木の匂いがあります。白い馬は束縛されない自然を感じさせます。もう一人の人物には、外界の雑念を感じます。森の内にある静寂の世界に、赤い馬に跨ったあなたが見えるのです」
「私の絵は、評判がよくなかった。ゴミ箱に棄てられたのじゃ」
「イエスが十字架にかけられたのと同じですね」
「そうなのじゃよ」
「セリユジェは、あなたを模範にしているそうですが、セリユジェが描いたタリスマンには、あなたのような静寂は見えません」
「そうかも知れない」
「画風は真似することができても、あなたが見ている静寂の景色は、セリユジェ自身が体験しなければならないということですね。ミケランジェロがラオコーンの復元を拒否したように」
「そうなのじゃよ」
「描線や色は、ことばや彫刻、それに音と同じように、自分自身を表現する一つの手段に過ぎないということですね」
「その通りじゃよ」