あの日のユチが嘘のように穏やかな今は、自惚れでもなんでもない。
俺が傍にいるからなのだと……
「暑いの?」
「そうでもない」
「でも手がヌルヌルだよ」
「ヌルヌル言うな」
「ベトベト」
「その方がマシかな」
「意味わかんない」
……触れ合うだけで実感できる……
「明日も晴れるかな?」
「じゃないと困る。一日中家ん中にいると気が滅入る」
「…………」
「別に深い意味はないって」
「…………」
「ただ雨はイヤだなあって」
「…………」
「怒った?」
「……ありがとね」
「…………」
「ごめん?」
「聞かないでよ」
「ごめん」
そっと抱き締めた。
包み込むようにギュッと……
……メチャクチャにしたい……
……メチャクチャにされたい……
……壊れるまで……
……壊したい……
……抱く感情が俺をダメにしていく。
そうと知りながら受け入れてしまう弱さ。
「明日はさ」
「ん?」
「ファミマの向かいにある電器屋にしよっか」
「また行くんすか」
「……この部屋、やっぱ暑いし」
「だろ?」
「うん……」
…熱を奪ってく…
…初夏の風が少しずつ…
…それでも俺達は手を繋いで…
…温かいよって誤魔化すんだ…
「……おやすみ」
夏のせいにはしないんだ。